|
|
|
この項が、私の述べているセッティングのノウハウの中で、最もインパクトのある所でしょう。
じっくり読んでください。中には、これはどう見てもおかしい、あるいは、けしからんと憤慨 される方がいるかもしれませんが、残念ながら、以下は厳然たる事実です。
クラッシック音楽の再生で、プリアンプのトーンコントロールの使用は、絶対に必要です。
トーンコントロールとは、高音や低音を好みの量に変化させて聞くための機能ですが、もともと、 これを必ず使用しなければ、まともな音楽を聴くことができないように、録音がなされているのです。
このことを知らないオーディオファン、音楽ファンが多すぎます。全く可哀相なことと思います。 これについては、じっくり話を進めなければなりません。 |
話は1960年ごろにさかのぼりますが、モノラル録音からステレオ録音に変わっても、 LPレコードの時代になっても、音楽録音の基本は、如何にオーケストラの音の全てをくっきり
はっきり録音するか、そして、レコードを再生した時に、如何に全ての音がくっきりはっきり 聞こえるようにするかでした。当時は、現在とは比べ物にならないほど録音技術が低かったし、
機材のグレードも低かったはずです。
オーケストラのステレオ録音のマイクの位置として、ステージ上のオーケストラの真上中央が 選ばれたのは自然のことでしたが、ここは前述のくっきりはっきりと言う音の特性を満たす最も
良い位置でもありました。そこで収録される音は、ホールの客席で聞く音とは、全く異なっては いましたが、全ての音がくっきりはっきり捉えられて、客席の音とは違った感動がありました。
ここが、オーディオマニアが誕生した所以でもありましょう。
それはさておき、LPレコードにはRIAA特性なる物があり、全ての音はこの特性に従って、 高音を最大20dB強調し、低音を最大20dB減衰して録音されています。
レコード再生時は、
プリアンプのフォノイコライザーで逆の特性をかけて、フラットに再生するようになっています。 これらは、レコード盤の物理的特性によるもので、低音を圧縮しないと音溝が大きくなりすぎて、
レコード針がトレースできなくなるからであり、高音を強調しないと、雑音にうずもれてしまって 聴き取れなくなるからでありました。
このように音楽録音の歴史は、高音域の強調にあると言っても過言ではありません。これは、 現代のメイン音楽ソースであるCDでも認められます。CDでは、さすがにRIAA特性などと言うものは
ありませんが、録音マイクのセッティングは、基本的にステレオ録音の初期と全く同じです。 現代のデジタル録音技術でも、オーケストラの真上のステレオマイクは、やはり音をクリアーに
収録するためには欠かせないもののようで、いくら録音技術が進んでも、ホールのS席にマイクを セットして録音するというわけにはいかないようです。
|
|
ここまでくれば、もうお分かりでしょうか。CDでも最新のSACDでもDVDAudioでも、基本的に
くっきりはっきりすべての音を捉えるために、つまり、中高音が強調されるように、オーケストラの 頭上のマイクで録音がなされているのです。それは本来のホールで聴くオーケストラの音とは
似ても似つかない物です。我々リスナーは、再生時に適宜、高音域を減衰させてはじめて、本来の オーケストラのホールサウンドに包まれることができるのです。
つまり、我々は、CD、SACD、DVDAudioの音楽を聴くとき、ちょうどホールのS席で聴く音をイメージ
できる程度に、高音域を減衰させ、また、それに伴って(必然的に)低音域を増大させて初めて、 本来のクラッシック音楽を、オーケストラ音楽を、自然な音で、美しいホールトーンを伴って
楽しめると言うわけです。
逆に、このような見方もできます。録音技師は、最大限全ての音を強調するように、くっきり はっきり捉えて、CD等に入れてくれている、それはリスナーが再生するときに適宜、必要なだけ
解像度を落として楽しめるように、十分な余裕を持たせて、高音域を強調して入れてくれていると 考えても良いでしょう。
オーディオマニア、特にハイエンドと言われる人たちの間では、トーンコントロールは使用しないのが常識とも聞きますが、とんでもない間違いです。また、一部のレコーディングエンジニアやオーディオメーカー関係者の中にも誤解している人がいるのは、残念なことです。 |
あなたが、以上の話を聴いてもまだ、トーンコントロールは絶対に使用しない、あるいは使用しては いけない、トーンコントロールを使用しないで素晴らしい音響が実現できていると言われるのなら、
あなたはバリバリのオーディオマニアです。私とは違う世界の方です。少なくとも音楽ファン、 クラッシックファンの方ではありません。今後とも特殊な音響の世界を極めてください。
あなたが、以上の話を聞いて、今までなんとなくトーンコントロールを使用することに罪悪感を 感じていたけれども、今日からは自信を持って使用できると言われるのなら、あなたは間違いなく
音楽を深く理解する方です。今後は、よりよい音響で自由に音楽を楽しんでください。
通常、トーンコントロールで高音域を4〜5dB減衰させ、低音域は逆に4〜5dB増強して、 ちょうど良い音響が得られるようです。これは、オーディオルームやスピーカーシステムにより
変わるので一概には言えません。
ここで、なぜ低音域を増強するかですが、それは高音域のみ下げると、逆に相対的に1kHz付近が 強調されて具合が悪いからです。と言うのは、トーンコントロールは、一般的に高音は1kHz付近から
上の周波数領域、低音は下の周波数領域のそれぞれを徐々に増強、あるいは徐々に減弱するように なっており、高音のみ下げると、この1kHz付近が相対的に強調されてしまいます。従って、一般的には、
高音域を下げた分だけ、低音域を上げてやる必要があるわけです。しかしながら、かならずしも、 高音を4dB下げたら、低音を4dB上げれば良いとは限りません。一般的なオーディオルームの特性は、
低音域の方が多少荒れているものです。いろいろ試して最善の調整量を見つけましょう。
また、録音ソフトごとに、その調整量を加減すべきものでもあります。これは、次回のレファレンス CD&DVD&SACDのコーナーでも述べたいと思いますが、録音レーベルによって、またホール
によって、演奏者によって、トーンコントロール量は変えるべきです。完璧な調整をめざすと、 なかなか面倒です。デジタルプリアンプを使用すると(Pioneer
C―AX10など)8とうり くらいのトーンコントロール量をプリセットでき、リモコンでソフトごとに変更できるので大変便利です。
また、プリアンプによっては、高音、低音それぞれのターンオーバー周波数を切り替えられるものも あります。自然で楽しめる音響作りには、重要な機能です。
先に述べているように、オーケストラのステージ上のステレオ録音マイクでとった音は、本来の
ホールのサウンドとは似ても似つかない物です。しかしながら、必要十分な解像度を確保しながら、
自然で美しい音響が得られるように高音を落とし、それに伴って低音を増強すれば、実際のホールの
S席を超える音響が簡単に得られます。それは、実際のS席で聞ける高音域のエネルギーよりも ずっと大きな高音域のエネルギーをステージ真上のマイクで、録音時点で最初に確保しておいたから、
はじめてできることなのです。高音と言っても、周波数がいくら以上とは決まってはいませんが、 音の解像度、響きの美しさを決めるのは高音域です。高音域のエネルギー量のコントロール、
すなわちトーンコントロールをうまく使いこなすことが、音楽再生の基本であることがおわかりでしょう。
|
以上がプリアンプで一番重要なトーンコントロ−ルの使用法ですが、最近のプリアンプには、
トーンコントロールがついてないものもあります。これらは、別にグラフィックイコライザーなどの 使用することを前提にしたものでしょう。ACCUPHASE(日本)等からは、リスニングポイントに
専用のマイクを立て、ピンクノイズを発信して音場特性を調べ、コンピューターで自動的に好みの 特性にトーンコントロールしてくれる機器も発売されています。これらの機器は、究極のトーン
コントロールと言えましょう。
|
もちろん、トーンコントロールは一種の音質を低下させる可能性のあるデバイスです。専門的には、
歪の増大や位相の回転などが発生します。使用しないで完璧な音響が得られれば、良いに越した ことはありません。しかしながら、前述のように、録音そのものが、リスナーが試聴時に、適宜トーン
コントロールを使用して聞くことを前提に、高域の情報を強調気味になされている以上、使用せざるを
得ない必要悪です。単純な高音と低音のコントロール機能を持つプリアンプで、十分に良い音響が 得られるなら、複雑なイコライザーなどは使用しない方が良いでしょう。
|
前回述べたデジタルプリアンプでは、従来のアナログプリアンプのトーンコントロールで避けられ なかった、ひずみの増大や位相の回転の問題が、ほぼ完全に解決されています。デジタルプリアンプでは、
入力されたCDやDVD等のデジタル信号にデジタル信号の状態でトーンコントロールをかけて、それから アナログに変換するため、これらの問題がほとんど生じません。これからの時代は、DVDAudioの以下に
述べるスピーカーコンフィギュレイションの問題も考え合わせると、デジタルプリアンプが主流と なるでしょう。
マルチチャンネルのセッティングは、デジタルプリアンプなら簡単です。 |
マルチチャンネルのセッティングは難しいと思われていますが、そうではありません。デジタル プリアンプでは、DVDAudio再生時に必要なスピーカーコンフィギュレイションの設定の機能があり、
説明書どうりに、設置した5台のスピーカーの大きさや位置の情報を入力し、テストトーンを 聞きながら、各チャンネルのレベルを合わせ、トーンコントロールで、各チャンネルの
音質を合わせれば完成です。 この5台のスピーカーの選定方法は、前回述べましたが、前方3台は、できれば同じ大型の物、
後方2台は、多少小さくても良いですけれども前方と同じ種類の物です。それぞれの位置は、 スピーカーセッティングの項で述べているように、センタースピーカーは、ステレオ再生用のメイン
左右の2台のスピーカーの中央に、リスナーからできるだけ左右のスピーカーと等距離に、後方2台は、 できるだけ左右は等距離ですが、前方と同じ距離をとる必要な全くなく、任意の場所でOKです。
アナログプリアンプでは、DVDAudioのコントロールは基本的にできないので、本来のDVDAudioの設定で
ある、5つのスピーカーは全く同じ物、リスナーから完全に等距離、角度は、前方左右2台は60度、 後方は120から150度以内という指定を完全に守らなければなりません。
デジタルプリアンプの音質を向上させるテクニックとしていくつか挙げておきます。 |
デジタルプリアンプは、メインソースであるCD、DVDなどは、同軸ケーブルでデジタル接続すること、
それ以外のデジタルBSやCS、D−VHS等は、光ファイバーでデジタル接続することがあげられましょう。 CS、BSなどのデジタルソースは、電源のON、OFFにかかわらず、必ずプリアンプの音を悪化させます。
光ファイバーで接続することによって、メインソースの音質を維持できます。
もう一つ、これはかなり決定的に重要なことですが、CDやDVDの周波数特性を改善するデジタル フィルターは是非とも使用しましょう。私の使っているPioneerのC-AX10は、レガートリンク
コンバージョンと言って、楽音の本来の倍音成分を前後の音波から超高速で演算して付加する フィルターがついています。これは素晴らしく効果的です。世界が変わります。フィルターを
使用しない世界を2次元とすると、このデジタルフィルターを使用したら、3次元+横の拡がりが 出てきます。位相は全く変化しません。なお、このフィルターはPioneerのCDプレイヤーなど
には標準で装備されているようです。
また、C-AX10にはハイビット機能と言って、16ビットのデジタル情報に下位8ビットを追加し、 24ビットにビット拡張して、ダイナミックレンジを拡張する機能もついていますが、これは、
まだまだ、だめです。位相が狂ってしまいますから、オーケストラの大音量再生には禁忌事項です。
C-AX10の使用法のポイントとして、あと3つほどあげておきましょう。 2チャンネル再生のときは、トーンコントロールは、フロントの2チャンネルのみ設定し、
センターやリアはフラット(使用しない)としておくことでしょう。これは、デジタルプリアンプとて、 やはりメインの2チャンネル以外に余計な回路の負担をさせない方が、音がよくなるからと
考えてよいでしょう。
スピーカーコンフィギュレイションは、大きく分けると4とうりあります。すなわち、DVDAudio 標準の5チャンネル、フロントとリアそれぞれ左右2個の4チャンネル、フロント左右にセンター
のみ加えた3チャンネル、従来からのフロント左右のみの2チャンネルです。C-AX10では 8とうりのコンフィギュレイションがプリセットできますが、私の以上の4とうりを
ローカットフィルターOFF、LFEミュートなし(0dB)として設定しています。 そして、DVDAudioは、標準的なソフトは当然5チャンネル設定ですが、DVDAudioでも
2チャンネルのソフトや、CDについては、ほとんどの場合、この3チャンネル版で聴いています。 (当然、音はフロント2チャンネルしか出てこない) この3チャンネル設定が、一番、
音の鮮度〜解像度のバランスが良いようです。5>4>3>2と使用チャンネルを少なく 設定するに従って、音の鮮度〜解像度が向上しますが、これは、各チャンネルの出力アンプの
使用を減らしていくにつれ、メインのフロント2チャンネルの出力ゲインが向上するためと 考えられます。しかしながら、出力ゲインは、大きければ大きいほど音がよいとは限りません。
適度のゲインで出力する、すなわち3チャンネル設定(音はフロント左右しか出ない)がベスト な音響が得られるようです。
最後に、C-AX10とDU-AX10をPDIF接続(Pioneer専用のデジタル接続)して 聴く場合の最も重要なポイントは、5・1チャンネルのアナログ出力は接続しないこと、すなわち、
DU-AX10の アナログ出力はC−AX10の5・1チャンネルのアナログ入力へは、一切接続しないことです。これは、正確な
理由は、はっきりしませんが、アナログラインのアースを共有することになり、デジタル系の回路に、 何らかの干渉をしている可能性が考えられましょう。
|
DVD-Audioのソフトの中には、後述しますが、PDIFでの5・1チャンネルのデジタル
出力を禁止しているものがあります。これらのソフトは、アナログで5・1チャンネルを接続しない
とサラウンドでは聴けず、PDIFでは48KHZにダウンコンバートされて2チャンネル再生 となります。それらも含め、すべてのCD及び、DVD-Audioは、現時点では、5・1チャンネルの
アナログラインを接続しないPDIF接続で聴くべきです。そのサウンドは、間違いなく、世界 最高水準です。特に、著作権対応のグレードアップサービス後の音質(PDIF、アナログ接続は、L.R.のみ、アナログ3入力に接続しておくのが良い)
は、一段と素晴らしくなりました。より、くっきり、はっきり、ダイナミックな音響が、そして、倍音が
クリアに響きわたる様なホールの大音響が、底鳴りするようなエネルギー感が、聴ける様になりました。
|
デジタルプリアンプおよびアナログプリアンプ両方の音質を向上させるテクニックとして
|
十分に暖気することにつきましょう。すなわち、プレヒーティングです。私の使っている デジタルプリアンプは、音楽を聴く最低4時間前に電源を入れます。6時間ぐらいたつと
完調になります。あくまで電源を入れておくだけで、音は出しません。これは重要な ポイントです。音を出しても、ウォーミングアップの時間は速くはなりません。ウォーミング
アップが完了すると、音が全体に分厚くなり、底鳴りするような奥行きの深い音場が出現します。 ff(フォルテッシモ)で、今までどちらかと言えば、平面的にガーンと鳴っていたのが、
立体的に奥のほうから、グォーンと鳴る感じです。マニアによっては、プリアンプの 電源は入れっぱなしと言う人もいるようです。
一般的にマルチチャンネルの方が難しいと思われますが、実は逆で、マルチの方が簡単です。 2チャンネル再生は、前に述べているように仮想的音場であり、完璧な再生はなかなか
難しい微妙なものです。それに引き換えマルチは、完全に仮想定位ではないわけでは ありませんが、立体音響と言う点では十分に実在的であり、この点では2チャンネルとは
比べ物にならないほど簡単です。 例えば、2チャンネルのリスニングポイントは、前後左右プラスマイナス5ミリくらいの
幅しかありません。つまり試聴時に頭を動かすことはできません。ちょっとでも頭を動かすと、 楽器の定位や音場が変わってしまいます。対して、マルチチャンネルは、多少頭を動
かしても何の問題もありません。もちろん、マルチチャンネルも厳密には、ベストリスニング ポイントはプラスマイナス3センチくらいしかありませんが、感覚的には10倍くらいの
余裕がある感じです。マルチチャンネルの方が、気楽に楽しめる感じがあります。
|
|
|
|
|